恋心の不変性

完全版 アンネの日記 (文春文庫)』より。隠れ家生活のなかで、アンネはペーターに恋をする。その心の葛藤をあざやかに活写する。

ことによると彼は、ぜんぜんわたしのことなんか好きでもなんでもなく、心を打ち明ける相手を必要としているのでもないかもしれない。わたしのことなんか、ただのゆきずりの女の子としてしか見ていないのかもしれない。そうだったらわたしは、またしても友情を失い、ペーターをも失って、もとどおりひとりぼっちになってしまうだろう。じきにまた希望もなくなり、慰めも失い、なにひとつ楽しみにするものもなくなってしまうだろう。

ああ、彼の肩に顔をうずめ、こんなにもやるせない孤独感から、見捨てられたような寂しさから救われることができたら! でもやっぱり彼は、わたしのことなんかちっとも興味がなく、ほかのひとへもおなじような目を向けるのかもしれない。もしかすると、わたしだけを特別な目で見てくれたと思ったのは、こちらの思い過ごしだったのかもしれない。ああ、ペーター、どうかあなたにわたしのこの姿が見えますように。心の声が聞こえますように。それにしても、ほんとうにこういう悪い想像があたっていたなら、わたしはとうていそれを聞く勇気がないでしょう。

アンネの日記』は偽書だという説があるらしい。それを否定する説明→【珍説】「アンネの日記は捏造」???