フリーター亡国論 講演をきく

『フリーター亡国論』の著者でUFJ総研エコノミストの丸山俊氏の「フリーター亡国論 - もう個人の問題では済まない」と題した講演会に足を運ぶ。フリーターの増加は個々の資質というより社会の構造的問題だというお話はおおむね納得したが、フリーター問題では継続的に情報を集めていたので既知の話が多かった。ということで総括的なことは脇に置いて、自分が関心をもったポイントだけメモしておく。同じく講演に参加されたちびすろうすさんの考察も参照されたし。

若年者の就業意識

アンケートによると、若年者(15〜34歳)が仕事に就けない理由としてもっとも多かったのが「希望する種類・内容の仕事がない」。中高年(35〜54歳)の「求人の年齢と自分の年齢が合わない」とは様相がちがう。

いま若い人のなかで人気の職業として例に挙げられていたのがトリマー。トリマーのような職業はそもそも求人数が少ない。いくら望んでもあぶれる人は出てくるわけだ。丸山氏はフリーターが増える原因として不況による若年者雇用の抑制がおおきいとしながらも、こういった若者の就業意識の未熟さもまた一方であるのではないかと述べられていた。

そのとおりだと思うが、若者がトリマーや美容師やゲーム・デザイン関係などを志向する背景には、スーツを着て満員電車で通勤しデスクワークをこなすサラリーマン(ホワイトカラー)に象徴されるような漠然とした企業文化イメージにたいする幻滅があるのではないかと思った。

フリーターの年齢層・大卒学科別フリーター率

フリーターを年齢層別でみると、90年代は20〜24歳の層がいちばん多かったのが、いまは25〜29歳の層にシフトしているらしい。フリーターの高齢化・高学歴化が進行しているとのこと。

大卒者のフリーター率を学科別でみると、人文科学・教育・芸術など人文系がそれぞれ30%以上と高い数字を示している。理学・工学が15%くらいだから理系の倍だ。芸術の49%という数字はずばぬけているが、芸術なんて昔から食えない分野なわけでこれはやや例外的だろう。

団塊の世代の退場によって若年者雇用は増えるか?

2007年ごろから団塊の世代が定年をむかえ、いっせいに労働市場から撤退することから、若者の労働状況も好転するのではないかという楽観的な話もあるが、丸山氏はこれには否定的だった。

そもそも団塊の世代を多く抱えている業種は鉄鋼・造船に代表されるような製造業が中心で、この業種は団塊の世代の就職時は成長産業だったもののいまや衰退ぎみ。しかも工場などは海外にどんどん移転している。

いま成長している分野はサービス産業や情報関連産業。こういった業種にはそもそも団塊の世代のような中高年層が少ない。つまり団塊の世代500万人が退場しても、若者の受け皿はそれほど創出されないわけだ。これは納得。

これに関連して、昔なら例えば100人採用してその中から将来会社を支える中核的な人材がひとりふたり育ってくれれば、といった採用方針をとっていた企業が、少数選抜方式で10人だけ採用し、全員を将来有望な人材として育成する方向にシフトしているらしい。使い捨てではない人材育成に企業が取り組み始めたことで、皮肉なことに若年者の雇用の間口がせばまる結果ともなっている。

雇用の流動性と今後の雇用形態

日本の労働市場アメリカ式の競争原理を取り入れはじめているが、アメリカとちがって極端に流動性が低い。そのなかで優勝劣敗の競争原理だけが残ると、フリーターのようにいちどドロップアウトした者には挽回のチャンスがない。

丸山氏は、正社員と不当に搾取されているフリーターの垣根をとりはらって、実力成果主義で賃金を判断するほうがいいとおっしゃっていたが、おもに非熟練労働に配属されるフリーターと正社員をおなじ土俵に乗せても根本的な問題は解決しないように思う。loveless zeroさんがおっしゃるように、「NPO法人+スローワークあるいは半農半X」のような草の根の新たな労働形態の模索も必要だろう。

フリーター亡国論

フリーター亡国論