関係における主体性とかなんとか
それは彼女が離婚したいと言い出した六月の日曜日の午後で、僕は缶ビールのプルリングを指にはめて遊んでいた。
「どちらでもいいということ?」と彼女は訊ねた。とてもゆっくりとしたしゃべり方だった。
「どちらでもいいわけじゃない」と僕は言った。「君自身の問題だって言ってるだけさ」
「本当のこと言えば、あなたと別れたくないわ」としばらくあとで彼女は言った。
「じゃあ別れなきゃいいさ」と僕は言った。
「でも、あなたと一緒にいてももうどこにも行けないのよ」
彼女はそれ以上何も言わなかったけれど、彼女の言いたいことはわかるような気がした。
読んでいてずいぶんひどい男だなと思いつつ、同じような場面に置かれれば似たようなことを言いそうで、関係性への主体的な関わりへの諦めがあいかわらず巣食っているのかと嫌な気持ちになった。いやたんに否定的な感覚というのでもなく、惹かれる感覚が半分近く混じっていて、だから村上春樹の小説を楽しめたりもするのだが。さあ、どうしたものか。
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1985/10
- メディア: 文庫
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