七人の侍

七人の侍』(1954/日)をビデオ鑑賞。いやあ長い長い。3時間半か。リアリズムの徹底はたしかに出色だしパイオニアとしての価値も認識はするがどうもピンとこなかった。観ている最中に父が「黒沢は『生きる』が一番良かった」と声をかけた。自分も同感だ。

黒沢明は、武士道という過去のモラルの良い面を、封建思想や軍国主義や形骸化した伝統的様式などのなかから救い出し、日本人が自信を失って劣等感のなかに沈んでいたときに、心の支えとして提供した人だといえる。そのとき彼は比類のない造型力を発揮したが、じつはそういう意味での武士道的モラルをもっとも見事に表現した作品は、皮肉なことに侍を主人公にした時代劇よりもむしろ、現代劇で見るからに凡庸な小役人を主人公にした「生きる」だったのではなかろうか。
佐藤忠男『映画の真実 スクリーンは何を映してきたか』P.227

大衆化した武士道なるものを「いかに生きるか」と問うときの規範とするならば、『生きる』で志村喬が演じたしがない課長の生き様のほうがよほど武士道と呼ぶにふさわしい。