流れゆく

あわてて家を出たせいでかばんに本を入れ忘れた。おーまいがっ。ひまを持て余したので、車窓に流れる街並みを眺める。否、凝視する。ベランダに干されたシャツまで視界に入れてやろうという勢いで目を見開いていると、普段とちがった生活世界をとらえられそうに思えた。が、つかんだと思った刹那、風景は後方に容赦なく流れていく。

最寄駅からの帰途。自転車に乗った女子高生ふたり。顔にあたる虫をはらいながら「もう、虫とかありえへーん!」と快活な声がすっと耳に届き、流れていった。