視線のゆくえ

帰途の嵯峨野線は混んでいた。立ちながらヘミングウェイ日はまた昇る』に視線をそそぐ。軽い目の疲れからいったん本を閉じる。電車が揺れるたびに右隣の若い女と肩が触れる。意識的にすこし身体をずらすと、今度は左隣の妙齢の女の手が自分の背中に触れる。目の前には10代とおぼしき女が携帯メールを打っていて、至近距離で胸の谷間が視界に入る。どうにも落ち着かず、視線をななめにずらすとその先の窓際にはかわいい女子高生。ええい。しかたなく僕は目の疲れをがまんしながら身体を小さくして、再びヘミングウェイに視線を閉じ込めた。