仕事を辞め、家路につく

出社して一時間以上も、どうしよう、辞めるか、ふんばるか、と葛藤したのち、やはり無理だと結論をだして辞意をおずおずと伝えた。「うつは言いわけにならない」「逃げじゃないか」「ただのネガティブシンキングにしか思えない」「仕事に穴が空く」と、まったくうつ病のことは理解してもらえなかった。

ほかに理由を挙げてくれと言われたが、いまの仕事そのものにうんざりしていたので、意欲がわかないですとつぶやいて、あとはなんとこたえていいかわからず押し黙ってしまった。はたからみれば、身体を小さくしてうつむきかげんでなんともみじめな姿だったろう。世間話をまじえて慰留してくれた上司もさじをなげたのか、やがて退職願を書いてくれとA4のコピー用紙一枚をそっけなく渡された。

会社をあとにして空を見あげ、こんなにも空が青かったのかと久しぶりに景色をみる余裕がうまれた。もうとうぶん乗ることはないであろう路面電車の車窓から、流れる沿線の風景を目に焼きつけて家路についた。肩の荷がおりた安堵と、この先どうすればいいのだろうという呆然とした思いと、早々に仕事をあきらめた自己嫌悪が入りまじる。