ネグレクト 育児放棄─真奈ちゃんはなぜ死んだか

児童虐待防止支援の現場に携わる人々からも支持されていると聞き、興味を持って杉山春『ネグレクト 育児放棄―真奈ちゃんはなぜ死んだか』を一気に読み終える。非常にすばらしいルポルタージュだった。

2000年12月。3歳の女児がほとんど食事も与えられないまま20日近くもダンボールに入れられ餓死し若い両親が逮捕されるという事件が世間を騒がせた。その事件の道程を3年半以上の取材で追い、なぜネグレクト(育児放棄)は起きたのか、なぜ援助機関が介入していたにも関わらず事件を未然に防げなかったのか、その背景を丹念に描き出している。

本書はネグレクトを基点に広範な問題を提起する。育児における母親の孤立や旧来の男女観、地域社会の階層、支援のあり方と援助者のメンタルヘルスの問題、親にじゅうぶん愛情をかけてもらえずに育った人がどのような社会性を持つに至るか、といった現代社会のさまざまな問題を考える契機となる。

本書は第11回小学館ノンフィクション大賞を受賞。育児に苦悩する親だけでなく一人でも多くの人に読み継がれてほしい本だ。

示されなければならないのは、現代社会において親は、わが子がうまく育たないという状況に追い込まれたとき、さまざまな悪条件が重なるとここまで身動きが取れなくなるという現実と、その子どもがこれほどまでに悲惨な思いをしなければならないのだという実態ではないだろうか。

その上で、どうすればこういった悲劇を避け得るかという人間の英知が求められる。
『ネグレクト 育児放棄―真奈ちゃんはなぜ死んだか』P.187

ネグレクト 育児放棄―真奈ちゃんはなぜ死んだか

ネグレクト 育児放棄―真奈ちゃんはなぜ死んだか