相手のなかに見出す私

……男の子にね、なんであの人と結婚したのとか訊くでしょ? じつに多くの男が、あいつは弱い、って言うのよ妻のこと。弱いから一緒にいなきゃと思った、って。で、同じことを女に訊くじゃない、そうすると、彼は信用できると思った、だから彼を選んだって言うの。だけどね、この世の中に、弱い女なんてものは存在しないし、おんなじように信用できる男なんてものも存在しないと思わない? 彼女は弱いって言う男は自分が弱いんだし、彼は信用できるって言う女は自分が人を裏切らないたちなのよ。人は、相手のなかに自分を見つけたいんだよ」
町子は抑揚のない声で、正面を見据えながらそんなことをしゃべった。
角田光代『あしたはうんと遠くへいこう』P.190

「可哀想な女の子を救いたい」と思う男は、自分の中に「可哀想な女の子として体現される不幸」を飼っている、と言ったのは橋本治だった。「相手を救いたい」のではなく「相手に巣食いたい」というあからさまなダジャレまで頭に浮かぶ。「困難を分かち合って共に乗り越えていこう」だなんて上位にかまえた陳腐なセリフも「ひとりじゃ乗り越えられないから助けてくれ」ってことの裏返しでしかない。だったら素直に助けてって言えばいいのに。ほんと馬鹿。自分。