夏とバッタとクワガタムシ

ホームの端。一羽のカラスが口を半ば開けながらななめ上方に頭をむけ微動だにせずたたずんでいた。まるで彫刻のように。

帰りにまた京都駅伊勢丹でラーメンとギョウザを食す。書店で山本文緒『ファースト・プライオリティー』とベルンハルト・シュリンク『朗読者』を購入して帰途の電車に乗り込む。満腹による眠気に勝てず一駅乗り過ごしてしまった。陸橋を渡り向かいのホームのベンチで上りの電車を待つ。線路の向こうには暗闇に包まれた田んぼが広がっている。

ホームの灯りに群がってくる羽虫を手ではらいながら小説を読んでいると、どさっと頭に何かがぶつかりふとももに落ちてきた。それはとても大きなショウリョウバッタだった。このまえ電車の中で少年に踏みつぶされた子の何倍もある。さすがにちょっと驚いた。つかまえてどこかに逃がそうと手を伸ばしかけると、ばっと羽をひろげてあっという間に飛び去っていった。

小学生のころに初めて捕まえた大物のヒラタクワガタを思い出した。夏になると毎朝5時に起きて、近くの土手にぽつぽつと生えるクヌギの木にクワガタやカブトムシを捕りに出かけていた。虫捕りから帰ってきて仕事の母を起こすことが日課だった。ヒラタクワガタはその地域ではとてもレアで、僕はとても興奮していた。しかしヒラタさんはその日のうちに自力で虫かごから脱出し飛び去ってしまった。大物は賢くて俊敏だ。あのときの落胆はそれはそれは大きかった。

ちなみに僕の地域ではクワガタのことをゲンジと呼ぶ。