儚さ

「今日も一日おわりました。感謝、感謝」とつぶやきながら父が眠りにつく深夜。

母がとつぜん家を出てもう5年以上経つだろうか。父にはなにも告げず、「あんたから言うといて」と母にことづけされたときは、さすがに「自分で言えよ」と思ったものだが、夫婦関係はむかしから冷えていたのでそんな事態もしぜんと受けいれられた。聞いた父も「ふーん」という反応だった。「離婚したら?」と話をふっても双方ともに「手続きが面倒」と、その気はさらさらないらしい。夫婦とはよくわからないものである。

老境をむかえた父も母も年をとるにつれて草木にやけに興味を示しだした。母はガーデニングにこっているし、父も家中に花をかざったりしている。現役のころには考えられないことだ。そういえば飼い猫に無関心だった父が猫が死ぬ間際はいちばん看病に熱心だった。おなじ老境をむかえた身として他人事ではなかったようだ。

男女の関係は儚いし、花のいのちは短い。