憧れ

まだブログなどない頃だった。

更新をいつも楽しみにしている日記があった。広告業界に身を置くその男の文章は、シンプルでかつ言葉に対する感度の高さがあり、鋭利で、冷淡で、かつユニークだった。

日常の些細な事、恋人との関係、カフェでの人間観察、凡庸と非凡を峻別する抜きん出た洞察力。彼のあらゆる文章が僕を魅了した。

今やもう彼の文章はインターネットアーカイブでごく一部読めるに過ぎない。

彼の何気ない短文の日記が僕にBossa novaの世界を教えてくれた。彼の日記が僕のサッカー観を豊饒にしてくれた。

ブログが普及して書き手は一気に増えた。しかし彼ほど僕を魅了する日記には未だ出会えずにいる。