最近読んだ本──矢口敦子「償い」と樹林伸「ビット・トレーダー」

矢口敦子「償い」は近所の書店でランキング1位のミステリー小説。主人公は元医師だがいまはホームレス。ある深刻な事情で地位も名前も捨てた主人公。そんな彼が生活する街で何件もの殺人事件が起きる。

とある少年との出会いをきっかけに事件と彼の過去が少しずつ暴かれていく。この小説はかなり異色だと思う。たんなる犯人探しやトリックを見破るために物語があるのではなく、人間の業をじっくりと描写していて、主人公が自分を取り戻していく過程がメインに据えられ、小説世界に深みを与えている。A−

償い (幻冬舎文庫)

償い (幻冬舎文庫)

樹林伸「ビット・トレーダー」は株式相場を舞台にした経済小説だが、金をめぐる人間の心理が極めて鮮明に描かれている。じつにドラマティックな展開で、ミステリー的な要素や矢口敦子「償い」とも共通する家族の苦悩が根底に流れている。

ストーリーテリングは見事で読む者をグイグイを引き込んでいく。あまりに面白くて一気に読んだ。それほど前提知識がいる必要はないが、株取引の経験があればなおいっそう夢中になって読めるだろう。A−

ビット・トレーダー

ビット・トレーダー