恋愛中毒─重い関係とは

──どうか、どうか、私。これから先の人生、他人を愛しすぎないように。他人を愛するぐらいなら、自分自身を愛するように──

山本文緒恋愛中毒 (角川文庫)』を読了。主人公の水無月は愛しすぎるがゆえに苦しみ、関係を破綻させる。だからもう誰も愛さないように心を堅く閉ざすのだが……。

昨今の恋愛関係においては「重い」関係をとても嫌う傾向がある。重くもなく軽くもなく、「じめじめ」してなくて「さっぱり」している。さっぱりとしているが「ドライ」じゃない。むしろ「しっとり」している。「熱く」もなく「冷たく」もなく「温かい」関係。おお、なんて微妙でややこしいんだ。頭がおかしくなりそうだ。

「重い」気持ちは親密な恋愛関係において否応なく内からあふれ出ることがある。むしろその重力が関係を持続させる糧となる。にもかかわらず、その情動をストレートに表出することは許されない。だから彼女は苦しむ。その葛藤と切なさと心が破綻をきたす様がていねいにかつスリリングに描かれている。

ある知り合いの女の子がこう言っていた。あたしは彼氏のことがとても好きなんだけれど、自分はいわゆる「重い」タイプで、彼氏に嫌われたくないから他の男との軽い付き合いで寂しさをまぎらわしてリスク(気持ち)を分散させるんだと。

こっちを見るな。俺を見るな。彼はそう言った。私が誰かと会ったり一人で出掛けるのを嫌っていた彼が、まるで逆のことを言った。いつも二人きりでぴったり寄り添っていることを望んでいたのはどちらかというと夫の方だった。夫と二人きりの小さな世界はどんどん排他的になっていって、そこには夫の価値観しかなかった。私は考えることを放棄していたし、夫もその方が居心地がよかったはずだ。言いつけを守っていたいたのに叱られて蹴られた犬のように、私は引き裂かれて混乱した。山本文緒『恋愛中毒』P.288

重いとはなんなのか。それはそんなにいけないものなのか。そんなことをつらつらと考えたが結論は出なかった。

オススメ参考リンク:人間関係のメタファー

恋愛中毒 (角川文庫)

恋愛中毒 (角川文庫)