選択の自由のない選択

ハリウッドの代表的老舗映画会社ワーナー・ブラザースを買収し、それを足がかりに巨大複合メディア企業タイム・ワーナーを築きあげたスティーブ・ロス(1927-92)に関するエピソードで“選択の自由のない選択”というフレーズがなぜか印象にのこった。これはもともと“カード・フォース”というカードゲームのたねに由来するもの。

カードデッキにならべられたカードから1枚をカモにする相手に自由にえらばせる。カードじつははすべて同じものだったり、特定のカードを巧みにさばいてつかませる。よくあるカードマジックのたぐいだ。この一見して選択の自由があるように見せかけて、その実選択の余地がない“選択の自由のない選択”の原理(トリック)を応用すれば、手品を超えた多くの世界で利用することができる、という話。ロスは生前こう語ったという。

「このトリックは、トランプではいつでも有効で、ご夫人たちにはときどき、そしてビジネスにはたいてい、効果がある」
ビッグ・ピクチャー―ハリウッドを動かす金と権力の新論理 P.71

ロスはこのトリックを自覚的にビジネスに応用した。ところで自らをふりかえったときに、この“選択の自由のない選択”を日常の様々な場面において、無自覚に提示していたり、もしくは提示されていたりすることがあるのだろうか、という問いにぶつかるわけである。問いはあって、しかしとくに結論はない。