迷いこむアシナガバチ

ひるすぎの電車に乗ると暑苦しさを感じたので上着を脱いでシートに腰をかけた。すると前席から大きな音で着うたメロディが幾度となく聞こえてくる。上下黒のだぼついたジャージ姿の茶髪ガールがケータイをいじっている。たぶん倖田來未かなにかをメールの着信音にしているのだろう。若干イラついてくる。マナーモードにするという選択肢は彼女の中にはないのだろうか。そんなに聞きたいか、その着うた。

そんなとき途中の駅で停車中にアシナガバチが一匹迷いこんできた。アシナガバチはジャージガール直近の窓にはりついて羽音を立てている。彼女は怖がって席をはなれる。そしてそのまま車両の後方に移っていった。ハチ公、グッジョブ。

アシナガバチ。そういえば昔アシナガバチに刺されたことがある。あれは自分がハチの巣をほうきでつついていたせいで、なにもしなければとくにどうということはない。そうこうしているうちにドアが閉まり電車がうごきだす。ああ、これでハチ公は自分の生活圏から遠く離れた場所に強制連行されることになる。ハチ公は次の駅でどうにか車内から脱出したがこのあとどうするんだろう。どうにかなるものなんだろうか。いや、無職の人間が虫の心配してる場合じゃないんだけど。