仕舞には世の中が真っ赤になった

目を閉じると、死のイメージばかりが浮かんでくる。今まで溜め込んでいた感情が胸奥から吹き上がり、息をするのも辛い。断続的に呼吸が荒くなる。とても苦しい。過呼吸だろうか。感情をコントロールできず、時折涙が溢れてくる。食欲もない。仕事は見つからない。やりたい仕事は年齢制限にひっかかる。求職情報に目を通すこともできずにいる。愛猫が逝ってしまった。励まし続けてくれた彼女にも別れを告げられた。結婚して家族を持ちたいという彼女の将来の望みに応えることができなかった。

今までずっと先延ばししてきた様々なことが、ここにきて噴き出した。すべて自分の弱さがまいた種だ。頭の片隅から、身近な人を恨み、社会そのものを憎悪する感情がつかの間湧き上がってくる。だめだ。憎しみに支配されて、街中で刃物を振り回すような狂人にだけはなりたくはない。しかし自分を責めすぎると自死が背中に張り付いてくる。冷静になれ冷静になれ。世界はそんな単色じゃない。言い聞かせる。ぎりぎりの自分に言い聞かせる。彼女ともう一度会った。あれほど寂しがり屋だった彼女がとても強くなっていた。最後の最後まで友人として励ましてくれた。別れ際、二段とびで階段を駆け上がり仕事に向かう後ろ姿がとてもまぶしく見えた。

暑い。夏か。夏なんだ。夏目漱石『それから』のラストシーンが頭に浮かんでくる。