フラガール 甘みのない女のロマンが凝縮されている傑作

「泣ける」と聞いて見てみたんです。映画ファンっていうのは割とひねくれ者が多いので、泣けるか泣けないかで評価しなかったりもするんです。実際ぼくも「泣けたけど5点満点で3点」みたいな作品はあるわけです。ようするにテクニカルな方程式に当てはめただけの「泣ける映画」ってあるんです。それを目の肥えた映画ファンは「あざとい」と感じるわけです。

で、『フラガール』(2006/日)はどうだったかというと、泣けるとまではいかなくとも涙が滲むというところまで行きました。「あざといか?」と問われれば「それは違う」と答えます。先入観としては『ウォーターボーイズ』(2001/日)や『スウィングガールズ』(2004/日)みたいな矢口史靖監督の、ずぶの素人の若者たちが成長していく青春群像をコメディタッチで描く作品群の亜流かと思ってました。

でも全然違いましたね。たしかに青春群像であることは確かなんですが、ここには女のロマンが凝縮されていて、なおかつ炭鉱が次々と閉鎖されていく時代の転換点を描いた、例えばイギリス映画に多く見受けられるシリアスな時代背景を、きっちりと捉えているんです。

この映画で一番光っているのは、やはり蒼井優で、たぶん誰もがそう思うでしょう。実際彼女が踊るシークエンスは名シーンと言える点が幾度も訪れます。非常に美しかった。で、男である自分が誰に感情移入できるかと言えば、蒼井優の兄貴役である炭鉱で働く豊川悦司だったんです。

僕の今の仕事はウェブサイトの制作で、どちらかといえば時代の潮流に乗っている職業と言えるでしょう。でもこのネットの世界は技術革新が非常に早いので、ずぶの素人でもごくごく簡単に大規模でクールなサイトを作れるようなソフトが、いつ開発されてもおかしくありません。そうなれば僕の立場は、石炭から石油へ大転換されて時代から取り残される炭鉱夫たちと同じ境遇に置かれるかもしれません。

そう。これは時代の変化に翻弄される男たちの映画でもあるわけです。で、やっぱり一応映画ファンですからカメラワークやカット割、照明の当て方、特殊効果の使い方、細部の小物まで昭和40年という時代設定をちゃんと表しているか、音楽が効果的に使われているか、役者の演技の質はどうか等、客観的に評価する癖がついてしまっているのです。

しかし、そういった客観的な視点から見てもこの映画は非常にすぐれた作品でした。『ロッキー・ザ・ファイナル』が男のロマンを描いた傑作とすれば、この『フラガール』は女のロマンを描いた傑作です。僕が『ロッキー・ザ・ファイナル』をまったく客観視できずに泣きまくったように、『フラガール』には女性が見れば客観的な視点を失うほどの感動を与えてくれるのかもしれません。

最後に作品の評価ですが、これは満点でした。すばらしい映画です。で、涙が滲んだ程度とか書きましたが、二度目見たらふつうに泣きました(笑)

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