少し変わった子あります

「なるほど。しかし、注文ならば、食べるまえにすることだろう?」
「いやいや、それが素人なのです」
普通、客は素人である。しかし、荒木の話はまだまだ続く。
「コツを教えましょう。具体的な注文をしてはいけない。それでは、すぐに対処されてしまうし、そのうちこちらもネタが尽きてしまう。そうではなく、もっと抽象的で、自分自身でさえ、いったい何を求めているのかわからない、ただ、今食べたこの料理、今現在のこの持て成しは、僕が求めている本当のものに非常に近いような気がするものの、しかし、やはりなにかがたしかに違うのだ、という具合にですね、こう、難しい顔をして、首を横にふるのですよ」
荒木という男は、そんなわざとらしいことが自然にできる人物なのである。
(中略)
荒木は笑う。「しかしながら、言葉ではどうしても言い表せない。近いことは感覚的にわかるのだけれど、自分は何を欲しいのだろう? そう言ってやったのです」
「まあ、君の言いそうなことだ」私は少し呆れてしまった。
「ところが、ここからが、その店の凄いところなのです」荒木は片目を少しだけ細くする。顔の半分が社会主義体制のため、痒くても掻くわけにもいかない、といった表情であった。(P.10-12)

実に興味深い。

少し変わった子あります

少し変わった子あります

帯のキャッチコピーから

ここは、美しい孤独の生まれる場所
何故こんなにも、あの料理店に惹かれるのだろう。少し変わった子がいるだけのあの店に──。