恩田陸『三月は深き紅の淵を』★★★★

夏になると恩田陸の小説を読みたくなる。なぜだろう。暑くてバテてるときに読むと、影をまとったノスタルジックな文体に涼しさを感じる。寒気を伴っているとも言える。

おもしろくも奇妙なミステリだった。『三月は深き紅の淵を』は四部構成になっていて、それぞれ独立した物語として楽しめるものの、物語のなかで語られる『三月は深き紅の淵を』という伝説化した小説をめぐって人々の生が描かれている。

『三月は深き紅の淵を』をめぐって過去と現在を行き来しながら四部の中編は連環していて、物語そのものが複雑な入れ子の様相を見せながら、恩田陸らしき人物が登場し、やがて物語そのものが融解していく挑戦的なミステリだ。

この小説の構造については、その後に発表された『麦の海に沈む果実』巻末での笠井潔の解説で緻密に分析されている。『麦の海に沈む果実』は幻想的な学園を舞台にしたミステリだが、『三月は深き紅の淵を』の四部目で断片的に語られるストーリーから派生してひとつの小説として結実している。

三月は深き紅の淵を (講談社文庫)

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麦の海に沈む果実 (講談社文庫)

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