コーエン兄弟の『ノーカントリー』を見た
『パリ、テキサス』から温もりをすべて奪い去ると『ノーカントリー』になるのだろうか。
テキサスに広がる荒涼とした大地。たまたま麻薬取引のトラブルの現場に居合わせ、大金を手にした男ルウェリン(ジョシュ・ブローリン)を、常軌を遥かに逸した殺し屋シガー(ハビエル・バルデム)が執拗に追う逃走劇を中心に物語はすすむ。
劇中、シーンを盛り上げるような音楽は一切ながれない。淡々と殺戮を重ねながら逃げる男を追う殺し屋。退屈はしない。緊迫感は増す。これはすごいことだ。床に流れる血を足を浮かせて避けるカット。戸を開けて出てくる時に足の裏を気にするシーンが暗示する何か。撮り方もじつに巧い。
事件を追う保安官ベル(トミー・リー・ジョーンズ)には変わりゆく時代と自分の老いに対する諦念が見て取れる。暴力的に変化していく時代としての表象が殺し屋シガーだったのではないだろうか。
正直、コーエン兄弟の作品は苦手で退屈な思いをしたことが幾度もあるのだけれど『ノーカントリー』に関してだけは杞憂に終わった。
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